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減塩介入研究
日本人の食生活に適した効果的な減塩方法は?
~家庭調理における塩分濃度モニタリングの減塩効果の検討~
ネッズくん。ネッズくんは普段食塩をどれくらい摂取していると思う?


え~?考えたこともなかったな~。
どれくらい…。う~ん、わからないよ~。
国民健康・栄養調査(令和元年)の結果によると、日本人の食塩の平均摂取量は男性 10.9 g、女性 9.3 g 、平均10.1 g だよ。


この量は多いの?少ないの?
各基準の目標量と摂取量をまとめたよ。
男性、女性ともに基準値を超えているんだ。


食塩を摂りすぎていると何か問題があるの?
食塩の過剰摂取は胃がんや高血圧症、循環器疾患などの生活習慣病の要因とされているよ。


それは大変!
病気になりたくないから食塩の摂取量を減らさなきゃ!
でも、どうやって食塩の摂取量を減らせばいいんだろう?
今回は家庭で簡単に減塩を進められる方法について検討していくよ。

1.家庭でできる減塩手法を検討しよう

食塩の摂取量を減らすにはどうすればいいのかな?
加工食品や調理済み
食品を規制?
専門家による教育?
低塩調味料の使用?

確かにそれらは効果があるかもしれないね。
1つずつ確認してみようか!

当ページでは低塩調味料・減塩調味料の表示について研究実施時の内容に沿ってお伝えしています。
現在の表示基準については厚生労働省の「特別用途食品と栄養表示基準における低ナトリウム表示等の取扱い」をご確認ください。

加工食品や調理済み食品を規制?

お店で売られている食品の塩分量を減らせばいいんじゃないかな?
アメリカでは加工食品や調理済み食品に含まれる塩分量を規制することを提唱する報告書が公表されているよ。
でも、それはアメリカ人の食塩摂取量の約80%が加工・調理済み食品由来と推計されているからなんだ。(1)


日本人は違うの?
日本人の食生活では30%程度といわれているよ。なのでアメリカと同じように規制しても同じような効果があるかの根拠が不十分なんだ。
日本ではしょうゆや味噌といった調味料に由来する食塩摂取量に占める割合が約70%という研究があるよ。(2)

アメリカ人における
食事によるナトリウム源の相対的な寄与

日本人における
食事によるナトリウム源の相対的な寄与

(1) Committee on Strategies to Reduce Sodium Intake, Institute of Medicine; Henney, J.E. Taylor, C.L. Boon, C.S. The National Academies Press: Washington, DC, USA, 2010.
(2) Ministry of Health Labour and Welfare.in: japan TNHaNsi, ed.,2014
専門家による教育?

栄養士さんといった専門家に減塩方法を教えてもらうのはどうかな?
個別に教育して効果をみる研究はされてきたけど、個別なため指導内容によって減塩効果が左右されてしまう可能性があるんだ。


たくさんの人に教えることはできないの?
よりたくさんの人に一度にアプローチするには同じレベルの専門家の育成や指導方法の確立、家庭で誰でもできる簡単な減塩方法も合わせて開発しないといけないんだ。


専門家に教えてもらっても続けられないと効果がないもんね。
低塩調味料の使用?

スーパーで「塩分○○%カット!」っていう調味料を見かけるよ。
これらを使えば食塩の摂取量を減らせるんじゃないかな!
そうかもしれないね。でも、味が濃いのが好きな人だったり、薄味だと塩味を感じない人が使ったらどうなるかな。


自分の好きな味になるようにたくさん使っちゃうかも。
そうだね。味付けの好みは個人差が大きいし、年齢が高くなっていくと塩味を感じにくくなっていくから、今どれくらい摂取していて、どれくらいの味付けで十分なのか確認するのが大切になってくるんだ。


正しい量を使わないと低塩調味料を使う意味が薄くなっちゃうんだね。
目に見える形で減塩するためには?

どうやれば家庭で簡単に減塩調理をすることができるんだろう?
今回は家庭料理の汁物(みそ汁や煮物の煮汁など)における塩分濃度を数値として可視化して、それを記録する方法(以下「家庭調味モニタリング」)で簡単に減塩を実施できないか考えてみたよ。


みそ汁や煮物だったらよく食べるよ!
これらの料理で減塩できたら簡単かも!

ボクのお味噌汁は
どのくらいかな?

具体的には誰をどのようにグループ分けしたの?
新潟県在住の40~74歳の中高年50人をランダムに振り分けて家庭調味モニタリングと低塩調味料の使用有無の点から4つのグループに分けたよ。

グループ分けの表

そしてどちらの方法も実施できるように期間を設けて両方やってもらったよ。
そのために休止期間(ウォッシュアウト)を挟んだよ。

調査の流れ

Ⅰ期目のパターンでまずは実施してもらい、1か月の休止期間を挟んだうえでⅡ期は逆パターンで実施してもらったよ。


1回目が終わった後になんで休止期間(ウォッシュアウト)を挟むの?
介入の効果を一度リセットするためだよ。


1回目の内容が2回目の結果に影響を与えるのを防ぐんだね!
塩分の摂取量ってどうやって測るの?
食事によって摂取したナトリウムは、その95%以上が腎臓から尿として排出されるので、尿中のナトリウム量を測定する事で塩分摂取量が把握できるという仕組みなんだ!
対象者の1日分尿を採取して尿中ナトリウム量を測定したよ!
また、それぞれの介入前後のナトリウムの差を対照群と比較して介入効果を検討したよ!

性・年齢調整尿中Na排泄量の変化量(介入Ⅰ期)

※介入前後の差:最小二乗平均
介入群と対照群の差:共分散分析[95%信頼区間]:共分散分析、
調整因子:性別、年齢、喫煙習慣、飲酒、降圧薬を除く服薬、その他の介入、介入の交互作用項
*:統計学的有意(p<0.05)
家庭料理の塩分濃度監視と減塩調味料の使用が減塩に及ぼす影響
Misako Nakadate, et al. European Journal of Clinical Nutrition 2018 改変
・研究成果の詳細についてはこちらに掲載されています。
結果からわかること
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どちらの方法も介入群での食塩摂取量の減少量が大きい
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対照群との差による介入効果はどちらも統計学的有意差はみられないものの、モニタリング群の方がより減塩の効果がみられた
モニタリング 群間差: -1011mg(食塩相当量2.57g)
調味料 群間差: -283mg(食塩相当量0.72g )

どちらも減塩効果がありそうだけど、モニタリング群のほうが減少量が多そうだね!
汁物の塩分を測定することは低塩調味料の使用よりもより効果的な減塩効果が期待される可能性があることがわかったよ!


今回の研究ではモニタリングと低塩調味料の使用の2つの内容を全員に行ってもらったんだね。
効果をなくすために休止期間を設けたけど、一度身につけた知識は無くすことは難しいから、影響を受けた可能性があるんだ。
今回の研究は実施方法が適切か、減塩効果がみられるか等を確認する予備研究なので、次の本研究ではもっとたくさんの人に参加してもらって減塩効果が本当にあるのか確認するよ。

2.減塩手法の効果を検証しよう
地域性をなくすために次は神奈川や奈良といった広い地域の人に協力してもらったよ。


前回と違うところは地域だけなの?
グループ分けは前回の調査と一緒だけど、今回はグループの入れ替えをなくしたよ(介入1期のみ)。

グループ分けの表

調査の流れ

今回はどれか1つのグループの内容を3ヶ月行ってもらったよ。長期的な効果を検討するために、介入前、介入直後(3ヶ月後)、6か月後、12か月後の計4回測定を行ったよ。
介入群と対照群に提供・依頼した内容は以下の通りだよ。

1.家庭調味モニタリング
介入群
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汁物の塩分濃度を測定
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定期的に記録
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一般的な減塩情報の提供
対照群
-
一般的な減塩情報の提供
2.低塩調味料の使用
介入群
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低塩調味料の提供
みそ:約7%塩分
しょうゆ:約7%塩分
対照群
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普通調味 料の提供
みそ:約14.5%塩分
しょうゆ:約11~12%塩分
介入直後の結果をみてみよう。尿中ナトリウム排泄量の変化量をベースライン(介入前)と比較したよ。
介入直後は介入群、対照群ともに尿中ナトリウムの排泄量は減少したけど、両群の間では統計学的有意差は見られなかったよ。

各介入による尿中Na排泄量の変化量

※介入前後の差:最小二乗平均
介入群と対照群の変化量の差:共分散分析[95%信頼区間]
調整因子:性別、飲酒、服薬、居住地域、ベースライン時のNa排泄量(低塩調味料使用群のみ)
S.Maruya, et al. Short-Term Effects of Salt Restriction via Home Dishes Do Not Persist in the Long Term: A Randomized Control Study. Nutrients. 2020 Oct 3;12(10):3034. より改変
・研究成果の詳細についてはこちらに掲載されています。
次に介入開始から1年間の結果をみてみよう。
介入直後は減少したけど、介入開始から12か月後には介入前と同じくらいに戻っているよ。

介入開始から1年間の結果
尿中Na排泄量の変化
(モニタリング介入)

尿中Na排泄量の変化
(調味料介入)

※ベースライン時との差(平均値、調整なし)
S.Maruya, et al. Short-Term Effects of Salt Restriction via Home Dishes Do Not Persist in the Long Term: A Randomized Control Study. Nutrients. 2020 Oct 3;12(10):3034. より改変
結果からわかること
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両介入ともに介入前と介入直後の比較では尿中ナトリウム排泄量は減少したが統計学的有意差はなく、両群間の変化量の比較でも統計学的有意差はみられなかった。
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介入開始から12か月後にはベースラインの摂取量に近い値へ戻ってしまった。

今回の介入では思っていたような減塩効果はみられなかったみたいだけど、何か原因があるのかな?
今回の対象者は先行研究の対象者に比べて普段の塩分摂取量が少なかったんだ。また、今回は家族単位での参加も認めていたよ。そのため、家族内で料理を管理していた人の食生活が影響を与えた可能性も考えられるね。

今後の課題は?

今後はどんなところに着目していけばいいのかな。
平均的な塩分摂取量の人では3か月での介入では12か月後には尿中ナトリウム排泄量が戻ってしまうことから、長期間の介入や一定したアプローチの必要があるかもしれないね。
また、塩分摂取量の多い集団だったり、家族単位ではなく個人でみれば効果がみられるかもしれないね。


家庭でできる減塩方法に向けてはさらなる研究が必要だね!